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第2回 ウェブはあくまでツール「大貴かまぼこ」|連載『まちとWeb』

【連載】webサイトがまちづくりでできることを考える『まちとWeb』

『まちとWeb』はウェイズが制作するクリエイティブが、まちや人とどのように関わっているのか掘り下げます。
実際にクライアントに話を聞きながら、Webサイトの持つ可能性を探ります。

 

「はいどうぞ!」元気な声と共に渡されたホクホクのコロッケ。

包み紙越しに、今まさに揚げたてのカラっとした熱が手に伝わる。
サクサクの衣にかぶりつくと、意外にも中から更に熱々のすり身が現れる。
魚肉のぎゅっとした濃厚な味わいが広がり、一緒に入っている玉ねぎはこれまた丁度良い大きさで、少しトロっと、少しシャリっと…とにかく口当たりがとても良い。
衣の香ばしさ、すり身の塩気、玉ねぎの素材がもつ深い甘みが三位一体となって、寒さにかじかんだ体の奥へ、熱をもった美味しさの塊になって落ちていく。

大貴かまぼこ一番人気の「だいコロ」。一度食べたら記憶に残る逸品だ。



大貴かまぼこは神戸・湊川公園に沿って続く湊川の商店街の中にある。

はるか昔、天井川である湊川を埋め立てた地区なので、公園を頭上に眺めながら、トンネルのような空間にアーケードの商店街が続く。
昔ながらのお店が並び、ディープな空気に呑まれてぼんやりしていると急に坂道が現れたりする。
今自分がどこに立っているのか、浮いているのか沈んでいるのか、まるで夢のような気分にさせるこの商店街に、非日常を感じて訪れる観光客も多い。

そこで毎日、数えきれない量の揚げ物を揚げ続けているのが大貴かまぼこさんだ。
来店する地元のお客さんはもとより、病院や役所など、その味を求めて大量発注されることもしばしばの大人気店である。

ウェイズは大貴かまぼこさんのwebサイトの構築・運営とともに、店主の嶺岸さんと、いろいろな販促をお手伝いしてきた。
嶺岸さんの底が見えない人間力と、独自の販促展開に今後どのような展望を見出すか、インタビューを通して探りたい。



大貴かまぼこ代表 嶺岸 淳(みねぎし じゅん)さん
湊川「大貴かまぼこ」店主。一貫して手作りの練り製品を製造販売。
「たまねぎコロッケ」はシンボル商品として多くの人に愛され続けている。

「いわゆるかまぼこやさんのホームページはやめましょう」

ウェイズ
-ウェイズが一緒にお仕事をさせていただくきっかけを教えていただけますか
嶺岸
事の起こりは湊川公園でやってる手しごと市です。
ちょうどホームページを作る1年くらい前なんですけど。自分の店もいずれホームページをと思って、さて何を頼りにどう乗せて行ったらいいかなとずっと考えて。
手しごと市のホームページを見て「もしかしたらこのテイストなんじゃないかな」と直感的にね、ホームページの作り方とか。

それで僕のほうから手しごと市の事務局の方に「ここのホームページ作っているところ一回紹介して頂けませんか?」と聞いたんですよ。そしたらウェイズさんが来た。
ウェイズ
-手しごと市のホームページがきっかけで見つけてもらえたのは嬉しいです。
手しごと市のサイトは、見た人・来た人を最終的に街に誘導するような設計にしたので、そこをご評価頂けたんですね。

それでお会いして、企画の段階で「いわゆるかまぼこやさんのホームページはやめましょう」っていう話から始まって…。
嶺岸
そうそう(笑)かまぼこやなのにかまぼこやじゃないって。何を一番売りたいかっていうね。


湊川手しごと市イベントサイト
街の活性化戦略として企画された手づくり市に対し、サイトでは来場者に街を一緒に楽しんでもらうため、
店主をベースにした周辺のお店の魅力を紹介するページを作成した。

ウェイズ
-さっき食べた「だいコロ」をとにかく最前面に出すサイトにしましょうというご提案をして。
それを嶺岸さんが「俺もそう思ってた!」みたいな感じで盛り上がったことから形になっていったんですよね。
嶺岸
結局色々同じ業界のかまぼこやさんのホームページを見ても全商品出てるわけですよ。何が一番そこの売りなのかがわからない。
ウェブで展開するのでいろんな人が見てくれるチャンスだからね。
だったらじゃあ逆にうちは「だいコロ」で特化しよう、というのがウェイズさんとの共通見解でしたね。
ウェイズ
-戦略的に<大貴かまぼこ=だいコロ>っていうのを個性にしようという話ですね。


大貴かまぼこサイト

店のホームページだけでどこまで勝負できるんだろう

ウェイズ
-サイトを作ってから変化はありましたか?
嶺岸
僕自身、自分のお店のサイトを作ることは、店を1件出すのと同じ手間がかかると初めから思ってたわけです。

本当に売れてるホームページっていうのは、それこそ毎日専門的な方が入って、SEOといった裏側を絶えずいじってもらえるようなホームページにしておかないといけないし。
なおかつ、大手のインターネットモールなんかには出店してないですから。
ほんとにここの店のホームページだけでどこまで勝負できるんだろうと、最初からそういうスタンスでやっていきたいっていうのがあったんです。

やっぱりうちは目の前で作って揚げてるから、ほんとに食べたければ買いに来てくれるはずだと。
来店を誘発するブログでありたいって最初は始めたんですよ。

あとは既存の飲食店のお客様で、加工して商品として出される方のお話を聞いていて、そういうお客様をいかに増やせるかというのにも当初は取り組んでいきたかったですから。

その過程でいくつか問い合わせがありましたね。


「全然経験ないのに大丈夫?」それがスタートです

嶺岸さんとお話ししていると、先を見る力と、webを販促の一つと割り切って見ているのがわかる。
常に商売の目的を明確にして、そこに到達するルートを何本も引いて同時に走らせている。
そういった独自の販促展開は、嶺岸さんがこれまでいろいろな仕事を経験してきた影響もあるのかもしれない。



ウェイズ
-嶺岸さんは実は前に少しだけ制作会社にいらっしゃったことがありますよね。
嶺岸
あれはね、メディア制作と動画ストリーミングのプレイヤーの企画販売をやってました。でも1年半ですよ。その間はね、濃い濃い(笑)。
必死こいて独学で勉強して。こんな勉強したの受験勉強以来ですよ。

まあでもその時の経験が今のウェブに対する考え方の基礎になっているから。
今に繋がってるなって大いに思います。
ウェイズ
-よく知ってらっしゃるなと話してて感じます
嶺岸
僕は元々学校を出た後自動車メーカーに勤めたんです。広告宣伝とかマーケティングの方で約8年勤めました。

30歳の時に家内の実家がかまぼこやさんをしてたので。
あの時ね、なんなんだろう、怖いもの知らずというかなんでもできるんじゃないかと変に気が大きくなっていまして(笑)。全く違う世界ですけど。まあ家内の方でも後継ぎがいないっていってるし。
「じゃあ俺がやってみようか?」っていうと「ええ!?」って(笑)。

「全然経験ないのに大丈夫?」って、それがスタートですね。
45歳くらいまで約15年かまぼこやさんでやってまして。その間さっきのベンチャーに1年半いる期間もあって、今に至ってる。

嶺岸さんはそうしてかまぼこ屋を営む傍ら、FMラジオの企画をしたり、クルーザーパーティの企画をしたり、とにかく「面白そうなもの」への嗅覚が異常に高い。
そして見つけたら走り出さないではいられないのだ。

嶺岸
ほんと金にもならないアイデアはどんどん閃いてるんですけどね。お蔵入りになったのもありましたね。
なんなんだろうね、普通に商店街歩いててもこんなことやったらおもろいのになあっているのはいっぱいあるんですけどね。

他にないコンテンツ「大貴の美味しいレシピ」

ウェイズ
-コンテンツの内容がいいですよね、「大貴の美味しいレシピ」は特に面白いです。
嶺岸
レシピはクオリティが高いね。
レシピ考案者は家内の妹なんですけどね。元々料理が好きな人間で教室にも通ってる。
普段自分で創作料理を作るんですよ。その流れでレシピを一回ちょっとやってみたところ彼女もハマったんですね。
ウェイズ
-来店するお客さんとネットで買うお客さんを分けたいという目的がそのときあって。
店に来る人は対面で話ができるけど、サイトに来る人とはどうコミュニケーションをとろうかというところを考えていて、何か心をつかめるコンテンツが欲しいなと思いました。
妹さんが料理好きで、見せる場所も欲しいという話を聞いていたので、レシピが有効なのではと繋がったんですよね。
嶺岸
練り物やさんやから「練り物=おでん」しか浮かばないような状態ではね、あまりにも寂しいし。いろんなバリエーションや、「えっこんな事ができるの!?」っていうのが欲しいしね。それってやっぱり意外性があって見る人を惹きつける。
ついつい「どうやって作るん!?」ってなってしまうんですよね。だからそういう領域に入っていけるようなレシピを彼女は考えてくれるんですよ。非常に僕としたら助かるんですよね、そういうスタッフがいてね。
ウェイズ
-それに伴って店頭にこられる方のためにミニ冊子も作りました。
これは、近所の人はウェブを見ないと想定して。商店街は年長者の方が多いので、紙の方が喜ばれるって作ったんですよね。
嶺岸
そうそう
ウェイズ
-ウェブのレシピを紙にしただけでしたけど、それが結構よかった。
嶺岸
僕もウェブだけじゃなくて紙モノもいるって思ってて。両方絶対いりますよ。リアル店舗をやってる人間である以上ね。
中の人間が何をしたいのかとかね、どうしていきたいかっていうのをウェブにしろ紙にしろ通して見れないと。
「ああこの店はこういうことやってる店なんだ」っていうの。「だいコロの店だ!いっぺん行ってみようか」っていうとこまで誘導したいんですよ


大好評の商品を使ったレシピコーナー

オンリーワンになりたいなって思ってるんです

ウェイズ
-オンラインショップ、実地も含めて、今後の広報展開ではどんなことを考えられてますか?
嶺岸
ウェブは少しずつ浸透していって、メディアにも止まるようになりましたね。
特にエルマガさんでは特集で取り上げてくれたりして。神戸新聞を購読している人向けの冊子、奥さま手帳に今回と2年前の2回載せてもらいましたし、神戸本にも載りました。
あとは2019年に日本でラグビーがありましたね。その時に神戸市が外国人向けサイトを作ったんですよ。そのサイトの中にうちのお店を紹介してくれるサイトがあって。

色々アメーバ的にうちのお店もじわりじわりと広がってきてと感じますね。

そこにさっきいった外国人向けサイトでも、ウェブと紙モンを作ってましたんで、両方日本語版と英語版を載せて貰えて、良いPRになったと思います。ちょうどまだその頃インバウンドが盛んでしたから。
いっそのことホームページの英訳作っちゃうか!っていった事もありましたね。
ウェイズ
-リーフレットは多言語化しようという話は当時しましたね。
今後こういうのをしたいとかビジョンとかはありますか?
嶺岸
昨年の年末ね、県外に住む方から注文が入ったんですよ。でもその時は送りの注文が多くて、12/20くらいで締め切っちゃったんですよ。それ以降の人は年明けになりますと。けどそれでもいいですとおっしゃって下さって。
でも年明けになったらとんでもない”どか雪”が続いて、結局その方に送るの1ヶ月かかったんですよね。

一つの方法として、今色んな冷凍技術があって、自分の所のお店の商品の性格にあった冷凍技術を今後は使って、ちょっと遠く離れた人でも出来立ての「大貴さんの味だ!」っていうのを食べてもらえるようにしたいなと思いましたね。

その方はもともと神戸の方だったので「ちょっと懐かしく思って注文したんです」と。
ネットサーフィンしているとお店が出てきたので、わあ、ここの店や!と思って懐かしくなって注文したんですと。
こういう人のためにもこっちも努力しないといけないよねというのがきっかけでね。
ウェイズ
-いいですね
嶺岸
今のうちのお店の立ち位置をオンリーワンになりたいなって思ってるんです。やっぱりここに買いにこなあかん!ってなってくれたらいいなって思ってるんです。

ウェブはだからあくまでもおまけなんですよね。
やっぱりお店というものを構えている以上、お店と屋号っていうのは大事ですし、助ける一つのツールがウェブなんですね。

そのウェブっていう役割が大きくなってますよ。SNSも使うし、インスタもあるだろうし、場合によってはTikTokでだいコロ親父がこんななってやってる(ひょうきんな踊り)かもしれませんけど(笑)
ウェイズ
-(笑)大貴かまぼこさんの何が美味しいかっていうのをちゃんと出して、ここでこそっていうのを展開したいですね
嶺岸
やっぱりうちがきちっとした商品を作る責任がありますから。きちっとした商品を作ってこそ初めてこういうお話が成立しますから、初めに商品ありきだと思っています。そこは絶対手が抜けないことなので。

神戸湊川 大貴かまぼこ名物「だいコロ」
〒652-0042 神戸市兵庫区東山町1-1-21
TEL:078-511-3259
E-MAIL:info@daikoro.jp
営業時間:10:00~18:00
定休日:毎週木曜日・日曜日

湊川公演手しごと市
湊川公園で、地元・湊川地区の商業者が中心となって行われる「湊川公園手しごと市」
開催日は、毎月第4土曜日